ポピュラー・ジャズ音楽理論講座
さて、コード・ネーム(chord name)とは、みなさんご存知のことと思いますが「FM7」「Fmaj7」「F△7」 などの和音の記号のことです。このコード・ネームの最初のアルファベットの大文字(小文字では書きません。) が-Root(根音)-を教えてくれています。このルート音を音名(A,B,C,・・・)で表します。音名とは、A,B,C,・・・、 ハ、ニ、ホ、・・・のことで、オクターブを超えて音域がちがったりしますが、一般的には12個しか存在して いません。(一般的にはというのは、全音を四等分したりすることもあるので)そして、その根音の音名の上に 音を積んで和音を作るのですが、その積み方を教えてくれているのが「M7」「maj7」「△7」の部分です。 これからの説明には大前提があって、それは、「キーが有る、キーが特定できる楽曲」についてということです。 このことお忘れなく。その上で、 「コード・ネームは、見かけだおし」というのは、次のようなことを言っています。つまり、「D7」という コードがあるとしますと、このコードは「枯葉」という曲にも「There is no greater love」という曲にも 出てきますが、それぞれのコード・ネームが同じなのですが個性が違うので「見かけは一緒でも、別人ですよ」 と言うような意味です。他のコードにおいても、同じことが起こりえます。
「枯葉」と「There is no greater love」の二曲を例にして考えてみますと、まずは、何が違うのかを上げてみます。 だにでも分かる当たり前の事を書くなといわれるかもしれませんが、作曲者がちがうとかではなく音楽理論・楽典上の 違いです。
といったところでしょうか。上記の中でいまお話していることに深くかかわっているのは、「キーが違う」 「グレーター・ラブは長調で枯葉は短調の違いがある。」の二つです。 「グレーター・ラブ」のキー(調子)を仮に「C Major」(ハ長調)とすると、問題の「D7」は、
のように、5小節目と6小節目にでてきます。学生に教える上である音楽学校では、次のように解釈 (授業ではアナライズといいますが)、しています。 まず、
最初にディグリー・ネームという言葉が何を意味しているのかを分からないと始まりませんので このことから説明します。「キー(調子)」を感じることの出来る音楽では、普通、ある範囲の枠 の中で和声(コード)や旋律(メロディー)が自由に動いています。どのくらい「キー」を感じれるかは、 感じれないかは多少の個人差があると思いますが、これからの説明に使う音楽は、私たちが普段巷で 聞いている音楽をだと思ってください。さて、「ある範囲の枠」と言いましたがこの「ある範囲」というのが「キー(調子)」 「長調・短調」「テンポ」などといった事になるのでしょうか。その「ある範囲の枠」の根幹を成し ているのが音階(スケール)ということになると思うのですが。そして、その音階の出発点(最初の音) を「キー」といって音名で現しています。この音階の各音はそれぞれがお互いに特有の関係を 持っていて、よく知られている名称に次のようなものがあります。始まりの音を「トニック(主音)」、 四番目の音を「サブドミナント(下属音)」、五番目の音を「ドミナント(属音)」といったりします。 このようなお互いの関係は、出発音が変わってても維持され続けます。また、出発音に対して何番目 の音であるのかによって「・・・の性格を持っている」など、独特の個性を持っています。これらの事は 相対的な関係にあります。
例えば、の二つのメジャー・スケールは、出発音が異なりますがそれぞれのスケール の各音同士のの関係は同じです。出発音が変わっても、各音の関係を分かりやすく するために便利な道具として「ディグリー・ネーム」があります。 各メジャー・スケールの一番目の音は、「Tonic(トニック)」といい音階の一番目特有の性質を持っています。 この性質は、スケールの出発音が変わっても不変です。「F Major Key の一番目」も「Gb Major key の一番目」、 「D Major Key の一番目」もそのキーに対して同じ性質を持っています。スケールの二番目の音も三番目・・・七番目 も同じです。同じ構成の音階であれば、出発音が何であれ、相対的に音同士の関係は同じですがら「メジャー・スケール の一度は、キーが何であれ同じ性質を持っています。」これを一般化して、「Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅵ、Ⅶ」という風に ローマ数字で表すのが普通です。コード・ネームのみを目安に和声進行をアナライズすると混乱を招きそうになる原因 の一つは、コード・ネームは絶対的な音名で書かれているのに対して各コードの機能を表す「トニック」「サブドミナント」 「ドミナント」などが主音に対する相対的な位置を表しているからかも知れません。もし、混乱が生じているとすると この混乱は、ちょうど以前にお話した「固定ド」「移動ド」の関係に似ているような気がします。 スケールの各音は、音名で書かれていますから絶対的なものですが、それに対して、スケール各音の関係を表す「トニック・・など」は その音階に対する相対的なものです。まどろっこしく、このような説明など必要ないのかもしれませんがお許しあれ。
さて、久しぶりに「スター・トレック」的に説明させていただくと「グレーター・ラブ」の
の5小節目の「D7」は、C Major(ハ長調)の世界には存在しない惑星です。C Major の 太陽系には、CM7,D-7, E-7,FM7,G7,A-7,B-7(b5)とそれぞれの三和音という惑星があるのみです。アナライズの目的は、多分、そのキー に対する各コードの関係、そして概ね隣り合うもの同士のコードとコードの関係、そしてそれぞれのコードの出所 を解き明かして、他の曲のアナライズ、実際の演奏や編曲、新たな曲づくりに役立てることだと思います。という考えの もとにこの「D7」を考えてみると、
これは次のように考えます。「D7」は「C Major Key」にはないから、他の太陽系(主音の異なる音階)の「五度」上の 惑星(和音)を借りてきて使用しているものとしよう。このように屁理屈をつけて「G Major Key の 五度上のダイアトニック・ コードの D7」がでどころだと考えることにします。ディグリー・ムは、「Ⅴ7/Ⅴ」などと書きます。 このコードは「セカンダリー・ドミナント」 といって本来のキー、「グレーター・ラブ」の場合は、C Major、本来のキーのⅤ7と区別して考えます。この本来のキーの Ⅴ7を「プライマリー・ドミナント」と呼んで「セカンダリー・ドミナント」と区別しています。しかしながら、実際に演奏 しているのを聞いたり、演奏していると、この5小節目の「D7」は、解決を促す「ドミナント7th」コードとして聞こえてこない ような気がするのですが、いかがでしょうか。すこし前のE-7(b5) A7 がツー・ファイブになっていますので、この「D7」 に進んだ瞬間は、キーが「D」に移動したように感じてしまうこともあります。ところが、次の小節の同じコード・ネームの の「D7」は、次に続くコード進行が「D-7 G7」のツー・ファイブであるためか「ドミナント7th」コード、つまり セカンダリー・ドミナントとして感じることが出来ます。一曲のなかでも、「同じコード・ネームなのに中身が違うかも?」 なんてことが出てくるのでしょうか。同じ「D7」ですが、5小節目のものは「Extended dominant」(イクステンデッド・ドミナント) などと呼んで区別したりすることもあります。「ドミナント機能をもたないセブンス・コード」として、例えば、「F Blues」 の一小節目の「F7」などはその代表選手ということができます。
それでは、「枯葉」はどうなんでしょうか。コード進行は、
です。6小節目に「グレーター・ラブ」にでてきたのと同じ「D7」が出てきています。 「枯葉」は、マイナー・キーの楽曲で上記の場合は「G Minor」ということになります。 つまりは、この「D7」は、「グレーター・ラブ」の「D7」と見かけは同じですが、中身(性質) はことなるということが分かります。ディグリー・ネームを与えるとなると「Ⅴ7」というこ とになりますから、つまりこのキーの「プライマリー・ドミナント」と言う事になります。 セカンダリー・ドミナントが出てきましたので、ついでですが、私の学生時代の授業で、 すみません、混乱する事を言うようですが「セカンダリー・ドミナント」という概念の ない教え方で教えられたこともあります。自身でもっとも尊敬する音楽家の一人の「ハーブ ・ポメロイ」先生の「ライン・ライティング」というクラスです。機会があれば、その事に ついても、また、書きます。
で、またまた、横道にそれてしまいそうです。すみません。次回。